埴輪はどこかへ

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2022四国旅行:5日目ダイジェスト

列をなす水切瓦に、背筋を伸ばす。

 

4日目では高知県西部の中心都市、四万十市中村地区から高知市までの移動の様子をご紹介しました。今回は5日目、高知市から室戸岬を経由して徳島市に至る部分の様子をお伝えします。



土佐東街道は現在は国道55号に継承されている枠組みですが、鉄道の整備がなかなか進まなかった地域でもあり、現在でも奈半利ー室戸ー甲浦の間で大変長いバス移動を挟むこととなり、四国一周の一つの難所ともなっています(室戸市の市街地までは想像されているよりは遥かに利便性が高いですが、殊に室戸世界ジオパークセンターから甲浦まで、そしてその先の牟岐線南部が本数が少なくなっています)。

 

まず早朝の高知市から。以前訪れた高知城を外から。これよりも近くから観察することはできませんでしたが、数年前には本丸御殿と天守閣がセットで江戸時代の空気を残していることに感動したものです。



その後は、高知駅から後免駅へ、そして土佐くろしお鉄道に乗り換えて香南市の赤岡地区へ。土佐東街道沿いの集落によく見られる水切り瓦の商家がまばらに残り、またまちなみを見ているだけではよくわかりませんが、絵金と呼ばれる芸術作品が各家に存在しているようです。

 

つづいてあかおか駅から安芸駅へ。

途中で有名な手結港の可動橋も観察できました。

 

安芸駅併設の道の駅で自転車を借りて、北側にある土居地区へ。佐川が高知県西部へ睨みをきかせるための拠点であったことに対して、土居は高知県東部を広く支配するための拠点で、城(といいつつも「館」というほうがふさわしいか)のまわりにわりと広く武家屋敷の名残を示す土地割や垣根、一部では建築も残されています。それとは直接の関係があるわけではありませんが、現代の土居の入り口にあたる地点にある個人宅の「野良時計」は安芸市の代表的な風景とされており必見です。現在は動作を停止していますが、のどかな風景に洋式の機械時計があるという特徴的な景観は他の場所では見られません。ちょうど菜の花もきれいでした。

 

 




わりと整備はなされているようには思われましたが、観光客の姿はそこまで多くありませんでした。また景観を整える地域の範囲内でも徐々に建築や屋敷地の更新が進んでいるようで、「保存」というもののあり方を再考する時期に来ているようです。

 

駅に戻ると私はバスの時刻を完全に間違えていたことに気づきその手抜かりに驚きましたが、道の駅は充実しており、地元の人も多く購入していたおいしいお弁当にありつくことができました。安芸より先は高知東部交通のエリアで、安芸市から室戸市までの間はバスの本数は1時間〜1時間半に一本程度設定されており、変なローカル線よりもかえって使いやすいです(また後免駅奈半利駅の鉄路も一時間に一本ほどあり、公共交通が適切に維持されていてほんとうに素晴らしい地域です)。長距離路線で、交通量も多い区間なので、定時性だけは少し微妙ですが、それ以外は申し分ない。

 

つづいて数分だけ安田町中心部のまちなみを観察。本当は数十分のつもりでしたが飛んでしまいました。現在の表通りである浜側の道に並行するように趣有る家々や旧医院建築(ここまでたどり着けなかった…)が並びます。



気を取り直して田野町の市街地へ。田野町は四国でもっとも面積が小さい自治体の一つで、高知県東部の自治体の多くが浜沿いの集落ならびにその中心部を貫流する河川の上流域までを管轄している一方で、田野町奈半利町はそうではなく、市街地の割合が相対的に高くなっており、市街地のまちづくりへのインフラ投資が相対的に進んでいる印象を受けます。

 

田野町は古くから雑に言えば「谷口集落」的な栄え方をしており、上流並びに周辺からの物資の集積地で、奈半利川の流域がこの地域では殊に大きいことから中芸地域の中心地として力を持ちました。現在では道路交通の発達により多少の変化はありますが、街を横断するR55沿いには(相対的に)多くの店舗があり、古くからの街道沿いにも立派な建物が並ぶ、かなり規模の大きな町場といった印象です。

特に「岡御殿」は田野の栄えを今に伝える貴重な文化財で、なんとなく雅な空気が漂います。また、街の片隅には田野の繁栄の源泉の一つであった魚梁瀬森林鉄道を越す橋の一つが残ります。信仰の場につながる道をちゃんと立体交差にして、分断しない。地元に寄り添った、丁寧な仕事であるように思います。

道の駅田野駅屋も大変に賑わっていました。そのまま徒歩で奈半利川を越えて奈半利町中心部へ。奈半利町中心部には、水切瓦がよいアクセントになっている蔵造りの民家が数多く残され、一部はその歴史的価値から登録有形文化財となっていますが、その密度は地方の町場にしてはかなり高い部類に入ります(他に高いところといえば茨城県桜川市真壁等が挙げられます)。街を大きく一周するように歩くと、生活になじむ土佐特有の風景と、精巧で豪奢でありながらどこかしらに繊細さをも感じさせるすばらしい建築群に出会いました。ちゃんと案内板や街歩き用のパンフレットもあって良い。こちらにも魚梁瀬森林鉄道の遺構が残っています。

*私有地には立ち入らず撮影しております

 

さらに進み室戸市吉良川町の集落へ。街道沿いには多くの商家建築が残り、煉瓦風の建物まであって豪華な印象を受けます。一本裏路地に入ればそこは石の世界。潮風が吹き付ける厳しい立地条件に比して大変機能的でこぎれいな街だと感じました。重要伝統的建造物群保存地区に指定されています。

 

そして室戸岬まで。表の通りにはなんと大阪ゆきの高速バスが通っていきましたが、青い空に全体に黒っぽい浜や奇岩が並び、波打ち際に出れば、ほのかな潮の香りとともに透き通った海水が足元にやってきます。理想的な春の昼下がりの過ごし方、しばしさわやかな風の中に立ち止まっていました。

 

 

ここからはひたすら移動。まず室戸世界ジオパークセンターまで進み、なんと床が板張りのバス(まだ残っているんですね)に乗って海の駅東洋町へ。もう時間の都合上しまっていて残念。車窓は集落も途切れ、崖ー道ー海 みたいな区間がかなり長くなっています。

 

さらにDMVに乗り換え。高知県側のバスー鉄道切り替え場所でも阿波踊りの音声が流れながら車輪を出します。乗り心地は結構いいですが、車内はマイクロバスサイズなので、大きな荷物を持った人にはなかなか修行かもしれません。途中の駅ではもう使わなくなった気動車が佇んでいました。

阿波海南駅前の和菓子屋で補給をして、そこからは牟岐線気動車で一路北へ。比較的新しく静かな車内で、乗客はみな眠りこけていました。阿南市の富岡だけ少し散歩して、夜でも活気のある街・徳島に降り立ちました。