埴輪はどこかへ

楽しさも、憂いも、全て旅の中にある。

公共交通で巡る五島のしまたび[前編]

祈りと絶景の共存。穏やかな島の暮らしに溶け込む一日。

1ヶ月と少し前に「路線バスで巡る佐渡のしまたび」という全2回の短い記事を出したところですが(おそらくほとんど閲覧されていないので、ぜひお時間ありましたらご参考までに)、そのときに、路線バスをパズルのように組み合わせることで佐渡サイズの離島であっても、少し時間にゆとりを持てば公共交通と自分の足だけで一通りの観光名所を訪れることができるというのを示しました。あのときは曜日の関係で灼熱の5km徒歩とかが含まれていたのはご愛嬌といったところです(しかも歩いてもかなりいい景色だったので全然辛いだけではありません)。佐渡でいけるなら他の同じような大きめの離島も行けるのではないかと考えていたところで、隠岐は既訪でしたのであと考えつくものとしては対馬壱岐あたりでしょうか。

しかし、今までの記事をご覧になっている方ならなんとなくわかるでしょうが、基本的に重伝建か重要文化財の建築が(複数)ないと旅程が生えてきません。ということで五島が選択されたわけです。

 

前回沖縄の記事で最後福岡空港に飛んでおしまいとしていましたが、それはこの旅程を実行するためでした。

とりあえず福岡空港から天神へ出て、ご飯を買い込んで博多港へ。夜行便は壱岐対馬ルートと五島ルートの双方があるのでターミナルはそれなりに賑わっていました。コンビニとかもあるので最悪手ぶらで来ても困りはしないでしょう。

[1] 野母商船 フェリー太古 博多港→青方港

みなさん大好きフェリー太古。本土から五島向けは夜行、五島から本土向けは昼行の少し珍しい船ですが、一隻で回しているのがすごいですね。博多港を23:45とかなり遅い設定ですが、実際には2時間前の21:45から乗船して中で食事や携帯の充電、睡眠etc. が行えます。逆にギリギリに行ってもさまざま陣取られていそうという感想です。

ちなみに学割の適用にはみどりの窓口でJRに差し出す学割証が必要です(学生証だけでは通りませんので注意)。クレジット対応です。

 

ちなみにコンセントのあるカフェスペースみたいなところや雑魚寝はかなり繁盛していました。休前日となるとグリーンの方の区画も結構混むようですね。別に無課金エリアでも夜は越せると思います。新しい船ですしトイレなども綺麗。

 

とても疲れていたので気絶するように寝て、起きたら宇久島の宇久平港に着くところでした。お年寄りもたくさん降りていくので驚いてしまいました。凄まじい早朝ですがどうかお体労って。

 

続いて小値賀島の小値賀港でもかなりの方が下船。無課金エリアはだいぶ空いてきましたが、よく考えたら長く乗る人は課金エリアにいがちですよね。私は粘って中通島の青方港で下船しました。

敢えて接続の有川ゆきを逃して、まだ暗闇の中を最寄りの市街地(青方)まで2kmほど歩きます。青方港とは言うものの、相河桟橋は大きな太古の接岸に備えて結構遠いところにターミナルを再建したのでした。ターミナルは新しいのでトイレなどは綺麗。ちょうどここで腹痛に襲われたのが怪我の功名です。

青方では早朝からほっともっとやローソンが営業していて、あまり離島に来たという感じはしません。国道の1本裏の通りに入るととても雰囲気が良い。少し離れて旧上五島町役場のおしゃれな洋館があります。

[2] 西肥バス 立串ゆき[榎津廻り] 青方→青砂ヶ浦天主堂

もともとは小値賀島の目と鼻の先のところにある津和崎地区に向かう系統で、上五島町新魚目町を縦貫していましたが、需要減に伴い新魚目地区の中心である立串までに短縮されました。ただ本数は離島にしては充実しています。東向きの海岸を通るので朝日が綺麗。

 

青砂ヶ浦天主堂鉄川与助による設計の煉瓦造のかなり重厚な建築。1910年の建立で国指定重要文化財です。早朝に行ったので内部は拝観できませんでしたが、穏やかな湾に向かって凛として佇むその存在感には圧倒されるものがあります。

細かいところでも教会堂の裏側の多角形的な造作など、丁寧に作られているのがわかる建築だと思います。

歩いて戻っている途中にスクールバスに抜かれるなど。結構公共交通は充実していそうです。

 

[3] 西肥バス 青方ゆき[奈摩廻り] 青砂浦別道→上五島病院前

青砂浦

バス停から

少し戻って奈摩循環線で、行きとは違う道を通って青方市街地へ。奈摩郷もよさそうな集落です。半島のど真ん中を直接上り下りします。青砂浦別道でもバスの接続を行っていてすごい。

 

 

当初の計画では有川まで始発のバスで出て船隠集落までバスで往復するつもりでしたが、もしそうしていたら腹痛で倒れていたと思います。今度は鯛ノ浦・浜串方面も訪れてみたいですね(流石に効率の問題上車があったほうが吉でしょう)。

[4] 西肥バス 有川ゆき 上五島病院前→有川

わずかな接続で有川へ。乗り継ぎが考慮されていてとても嬉しい。高校生がわんさか乗っていて、高校前で降りていきました。

[5] 西肥バス 頭ヶ島天主堂ゆき 有川→頭ヶ島天主堂

船の中で早朝に朝食を食べましたが流石に早すぎてお腹が空いたのでさくっとパン屋で惣菜パンをゲット。中通島の隣の島、頭ヶ島に向かう路線バスに乗り込みます。1日数便のみで、観光に対して有効なのはほぼ午前中の2本のみです(どちらにせよ折り返しは頭ヶ島天主堂12:00になります)。今回は余裕を持ってたっぷり頭ヶ島に2時間半ほど滞在できる便を選びました。頭ヶ島は、集落が世界遺産(構成資産として天主堂を含む)、天主堂が重要文化財に指定されています。

まだ朝早い頭ヶ島。観光客は私ともう一組だけでした。ガイダンスセンターで一通り説明を受けてから教会堂内部へ。30分の時間制限があります(00分、30分から開始される枠をまたげないの意です)。

まず外見の話をすれば、そこまで巨大な建物ではないにもかかわらずその存在感に圧倒されます。日本では珍しい石を主体にしたテクスチャは、重厚でありながらも青空に映えて、異国情緒すら感じさせます。色ガラスもなんともいえない良さがある。

 

内部は撮影禁止なので詳しくは観光協会などのHPを参照していただければと思いますが、外見から想像されるよりはかなり広く感じました。自然光がやわらかに内部を照らしていて静かな祈りの場を体感したところです。

 

ガイダンスセンターに戻ると、バスまで時間がたっぷりあるから昔ながらの里道を歩いてみたらどうだろうかという提案があったのでそうしました。手始めに天主堂のある白浜集落の海岸へ。びっくりするぐらい青いです。直前に沖縄にいたのに全然色褪せないレベルの感動。ここで2時間残り過ごしてもいいぐらい。

そうもしていられないので教会堂の裏を登る道に入ります(入口が少しわかりにくい)。気持ちの良い木陰が続き、そのまま尾根筋にある県道空港線に出ます。そして少し空港方面に進むと(そういえば上五島空港に行き忘れていました)絶景スポットがあります。白浜の集落とロクロ島を望みますが、海のすさまじい色彩よ。言葉はもういりません。

里道

トップ画像の位置です

まだ時間があったので田尻集落へ下がる里道へ。少しだけ石垣集落が残されていました。

踵を返し、徒歩で頭ヶ島大橋を渡ります。どこを切り取っても美しい。

橋を渡って少し進むと友住集落。石材が近隣で採掘されたため石畳や石塀が多い集落で、重要文化的景観に選定されています。佐世保へ一日一往復フェリーが出ているようです。

続いて赤尾集落へ。さらに石の存在感が増し、神社も石垣でガッチリと固められ、家屋の腰板も石、壁全体が石の建造物まで存在します。

[6] 西肥バス 有川港ターミナルゆき 赤尾→有川港ターミナル

ようやく有川へ。お腹が空いたのでエレナで刺し身と巻寿司を買いましたがお手頃で絶品でした。地魚最高!

レモンの使い所だけはわかりませんでした

ターミナルでお土産を買ったり(売店が一つあります)、資料館(結構充実している)を駆け足見学したりして時間を潰します。

 

[7]西肥バス 奈良尾ゆき 有川港ターミナル→奈良尾港ターミナル

 

このあたりが上五島の難しいところで、昼間帯に下五島の方へ進むには基本的には奈良尾に出なければならず、しかもそんなに船の便数があるわけでもありません。これに合わせてすべての行動の時刻が決められると行っても過言ではありません。

車窓はとてもよい。特にカトリック中ノ浦教会のあたりなど、五島だなあと感じます。疲れが溜まっていてかなり爆睡していましたが…

奈良尾の市街地に出る時間はなかったのでターミナルのお土産屋で買い物。奈良尾産のお菓子は割といろいろなところで幅を利かせています(一部は長崎空港でも取り扱いがあるぐらい)が、結構ディープそうなものも。

 

[8]九州商船 福江港ゆき 奈良尾港福江港

なんとこの短い区間にも学割の設定があります(学生証のみで利用可)。1時間は寝ていたらあっという間でした。クレジット利用も可能になっていました。

 

福江港ターミナルに到着。福江港はかなり繁華で、土産屋もたくさんあります。五島バスの一日乗車券(¥1000) を買おうとしたらなんと窓口が定休日と書いてありびっくり。観光案内所に問い合わせ、無事GOTO TSUBAKI HOTEL のフロントで購入できました。割と接続がギリギリだったので焦って市街地のバス停に向かいます。

[9]五島バス 向小浦ゆき 新栄町→玉之浦

 

一瞬で福江の街を後にします。この向小浦ゆきは旧福江市と旧玉之浦町の大宝、玉之浦、島山島を結ぶ基幹的な系統です。途中の岐宿町二本楠では、一度バスプールのようなところに立ち寄り、岐宿ゆきと富江ゆきに対面で乗り換えられる面白いダイヤ編成になっており、実際に利用されている方もいらっしゃいました(他には京都府南丹市営バスも同様のことをしていますね)。

 

二本楠から先はかなりの山間部を通り離島感はあまりありませんが、玉之浦湾が見えるところまで来ると、ダイナミックな地形に旅情が掻き立てられます。

海というよりはダム湖に見えるような景色が続く

大宝集落に立ち寄った後は、湾を回り込むようにして北上。向小浦までは行かず玉之浦で下車しました。途中には西の果て・大瀬崎灯台への登り口がありますが、バス停から歩いていると確実に終バスを逃してしまいます。

玉之浦は地形上天然の良港で、古くは沖合漁業の基地として栄えた場所で、一時期は1万人近くの人口を数えました。現在は静かな漁村といった趣ですが、海沿いから一本入った道沿いにはかなり密度の高い街並みが残されていました。海沿いの民家の合間に教会が佇んでいるのがまことに五島らしい景観です。

 

[10]五島バス 福江ゆき 玉之浦→お濠前

 

もと来た道をそのまま戻ります。闇に沈んだ山並みの中をぐんぐんと進んでいきます。福江の街明かりが私をホッとさせるのでした。

 

福江の夜は、開いている店はほとんどが居酒屋で、最近の観光客増の影響か、多くの店が予約のみや満席御礼となっていてかなり険しい。逆にGoogleが営業中と書いていてもシャッターが降りている店も多くあります。

 

結局居酒屋で五島うどん定食を頂きました。うどんが美味しいのはそれはそうなのですが、小鉢のきびなごの煮付けや酢の物がとても美味しかった。こういう偶然の出会いにこそ旅行の楽しさがあります。

 

次の記事に続きます。お手すきでしたらスターをつけてくださると筆者が喜びます。