埴輪はどこかへ

楽しさも、憂いも、全て旅の中にある。

路線バスで巡る佐渡のしまたび[後編]

変わりゆくもの、変わらないもの。人間の自然との向き合い方。

 

前編では1日目、両津、新穂、畑野、小木の各地区の訪問をレポートしましたが、続いて後編では2日目、羽茂、赤泊、真野、佐和田、相川の各地区の訪問についてです。前編を見ていない方はそちらもぜひお読みください(一つ前のエントリーです)。

佐渡市小木地区から一日をはじめます。

新潟交通佐渡 小木線(佐和田方面) 小木→羽茂高校前

佐和田へ走り去っていきました

朝7時前ですが時間の直前になると高校生がわらわらとバス停に集まってきて、ほぼ満席でのスタートです。高校前なのに誰も高校生が降りなかった。

羽茂本郷は現在は南佐渡地域の商業の中心とも言える地区で、小木市街地の徒歩圏内にないコンビニやドラッグストアが存在します。南佐渡地域では貴重な平坦地であるためさまざまな平地が必要なものが集まってきています。バスの営業所も羽茂本郷にあるので、一つの結節点になっています。

新潟交通佐渡 前浜線(筵場ゆき)

羽茂高校前→赤泊中学前

今ではもう珍しい、床が板張りのバス

これは乗るのが極めて難しい系統です。珍しい座席配置のバスでした。そもそも大きな街を通らないので誰も乗っていませんでした。

 

赤泊は古くは本土との行き来の港として栄え、近年まで寺泊ー赤泊のフェリーが就航しており一つのターミナルになっていましたが現在では静かな漁村という趣です。しかし有名な酒蔵や望楼型建築の民家など面白いものがありました。すれ違う小学生や中学生が全員挨拶してきてびっくりしました。

 

新潟交通佐渡 赤泊線(佐和田方面) 赤泊→新町本町(真野地区)

 

上川茂地区から田中角栄の功績として伝わる川茂峠の車道開削区間を通って真野に下るバスです。1日3本ぐらいしかないのに座席が全て埋まるぐらいまで乗っていてびっくり。混みすぎて車窓の写真撮れないなとうつらうつらしていたら真野についていました。

真野は国道沿いにスーパーや郵便局、たまに歴史ある民家が連なったよく整備された街並みです。

 

新潟交通佐渡 小木線(佐和田方面) 新町本町→河原田諏訪町

 

再び小木線に乗り佐和田へ。途中の八幡新町のあたりは道にぎっしりと面してかなり整った街並みでした。佐和田地区の浜辺には写真映えしそうな桟橋がありました。中心部には雁木があり、またバスターミナルには伊勢丹の出先があります。これは驚いた。

洋菓子屋でスイートポテトを買ったらコーヒーをつけていただきました。ありがたい。

 

(11)新潟交通佐渡 本線(佐渡金山ゆき) 佐和田BS→佐渡金山

 

やっと本線の登場です。平日は佐渡金山まで行く便が少ないのでこの時間に合わせてここまでの街歩きの時間が調整されています。

太夫

道遊坑

佐渡まで来て金山を見ないわけにはいかないので宗太夫坑と道遊坑の両方ともを見学。宗太夫坑は少し懐かしい観光施設といった趣ですが、必要な説明は一通り書いてあるといった感じですね。一方で道遊坑は坑道内部はかなり当時の趣そのままといった感じで、大変湿度も高く、採掘されたままの岩肌や坑道地面に埋め込まれたままのトロッコのレールなどが当時の面影を伝えます。坑道を出ると重要文化財の機械工場の建物があり、旋盤などが展示されています。その広場からは佐渡金山の代表的な景観である道遊の割戸を眺めることができます。山の峰がぱっくりと割れたような異様な景観は日本の他の場所では見られず、人工的な営為の規模を超えた壮大な景観です。少し登っていくと更に近くで割れ目を眺めることができますが大きすぎてよくわからなくなります。広場の下側にあるという高任地区の重要文化財群は近くまでたどり着けずよくわかりませんでした。

(12) 徒歩 佐渡金山→相川

とうとう本行程初の、30分以上の歩行をせざるを得なくなりました。平日は本線の佐渡金山までの延長運転が極めて少ないため、ほとんどの時間帯で徒歩で相川の街まで下るのが最適解になります。本当は旧相川拘置支所の筋に出たかったのですが、地図上では近いようで凄まじい高低差がありなかなかそちらの道に出ることができません。事前調査不足で坂の上の方の街並みは十分に観察できなかったため、相川には再び訪れたいところです。遠くに大海原を見遣る稜線に僅かな屈曲を持って伸びる街並みはなかなか優れた景観であると感じました。

下山のルートを東寄りにとって、北沢浮遊選鉱場に寄り道。佐渡の写真といえばここというスポットの一つですね。よくこの規模の構造物が崩れずに残っているものです。一周回って古代遺跡かのような風格があります。近くの資料館はよさそうな近代建築でしたが改修中で休館していました。

下からのアングルは記事の冒頭に掲載しています

海岸に並行して伸びる山裾のほうの街並みを東の端から歩くと。そこかしこに旧家の案内板がついており歩きがいのある街並み。たまに近代建築もあります。ちょうどお昼時だったので、回らない寿司屋で昼食としました。今まで学生の身分で回らない寿司というのは肩身が狭くほとんど訪れることがなかったのですが、とてもリーズナブルで質の高いお昼ごはんとなりました。

 


街並みの西端のほうには重要文化財の松榮家住宅がありますが内部非公開です。そのまま相川下戸郵便局まで歩いて散歩はおしまいとしました。

 

(13)新潟交通佐渡 外海府線(岩谷口ゆき) 相川→岩谷口

 

相川で少し時間の余裕を持って切り上げておいたのはどうしてもこのバスに乗り遅れたくなかったからです。相川から尖閣湾達者、高千を経由し岩谷口に至る、外海府を爆走する風光明媚な路線です。達者や北狄の集落はかなり大規模な板壁密集型のもので時間に余裕があれば訪れたいところですが残念ながらスルー。乗客も途中までは老若男女いて賑わっていましたが、岩谷口に着く頃には誰もいなくなっていました。平日なので、バスは岩谷口の小さな車庫に入ってひとやすみ。

達者集落(ガラス越しなのでぼやけています)

北狄集落(ガラス越しなのでぼやけています)

岩谷口車庫

相川地区の北東の果て、岩谷口は板壁の民家が並び海岸沿いの僅かな平地で稲作を行う美しい集落でした。

 

(14)徒歩 岩谷口→北鵜島の手前

 

路線バスで佐渡一周を行うにあたって、大体の場所で路線自体は繋がっていないがダイヤが噛み合わないことで苦しむことになりますが、平日に限って言えばこの部分は完全に路線がつながっていないことで同頑張っても歩くしかなくなります。ただ5km程度を2時間ぐらいで歩けばいいということでかなり余裕はあり、Google Maps に言わせてみれば立ち止まらずに行けば大野亀を直接視界に入れられるあたりまで行けるだろうという軽い気持ちで歩きはじめました。この区間は旧相川町と旧両津市の境界にあたり、人家が建つような平地は一切ない断崖絶壁の無人地帯です。車通りも僅少。

跳坂

立ち止まらずに、とは考えてみたものの、初っ端から凄まじい高低差を見せつけられて足が止まってしまいます。跳坂と呼ばれていますが、途中では橋の架替が行われていました(現在は完成したらしい)。橋からは美しい滝が見え、海をバックにすれば重機ですら立派な被写体です。もう少し登ってもと来た方面を見れば海岸、集落、山並みを一望できて素晴らしい眺めです。


ここまででわかるように、立ち止まらずに進むのは勿体ない絶景の連続で全然進みません。

しばらくすると海府大橋が見えてきます。細くて長い橋で少々足がすくみます。真下は斜面がすごすぎてよくわかりません。

 

そうこうしているうちに真更川に到着。簡易郵便局はもう閉まる時間なので到達の証明になりそうなことは一つもできませんが、道沿いにはたっぷりと稲穂をつけた水田、海岸に向かって板壁の大きな家が並んでいて、日本の原風景といった風情です。

 

バスをそのまま待っていてもしょうがないので更に進んでいきます。北鵜島の坂の上にある、佐渡の車田植えのあたりまで進んできました。細い県道沿いに木を組んで刈り取った稲穂を乾燥させています。向こうには大野亀が異様な姿で佇んでいます。夕暮れ時であることも相まって言葉にならない感動を覚えました。農村景観でこんなに感動したのは初めてかもしれません。

車田植えは言われたらもしかしたら丸かったかもしれません。時間がまずかったので車田植えの看板の前で待っていたらバスが停車してくれました(もちろんフリー乗降区間です)。

 

(15)新潟交通佐渡 海府線(両津方面) 真更川/北鵜島 間→夷本町

フェリーの最終便に向けて内海府海岸を駆け抜ける超ロングラン系統です(おそらく43kmぐらいある)。北鵜島の先、大野亀ロッジまでの間は素掘りのトンネルが連続し、ときには波をかぶるであろう恐ろしい隘路で、大型バスで通っていくのが怖いほどですが、車窓からは大野亀の優美な曲線的な姿に見惚れることができます。その先、願の集落にも立ち寄り、集落越しに二ツ亀を眺めることができます。すぐに暗くなってしまって寝ていたら両津のまちなかに着いていました。少し時間に余裕があるので、地場のスーパーやターミナルの売店を見て過ごしました。

 

そしてとうとう佐渡を発つ時が来ました。多くの旅行客を乗せて(バスにはほとんど観光客はいなかったからみなさんレンタカーで旅行されていたのでしょう)真っ暗な海原の中を2時間半駆けて、22:00頃に新潟の街に着きました。

 

35時間ぐらいの滞在で、平成の大合併前の旧市町村のうち、現在佐渡市役所がある金井地区以外のすべての中心部に降り立ち、更に主要な観光スポットのいくつかを抑えることができました。路線バスも2日フリーで2500円、宿も近代的な設備で5000円弱、なかなかいい話だと思っています。

 

次の記事では補足として、東京からの行き帰りの様子をかる~くご紹介する予定です。それでは。

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