埴輪はどこかへ

楽しさも、憂いも、全て旅の中にある。

路線バスで巡る佐渡のしまたび[前編]

見知らぬ街へ、日常と非日常をつないで。

 

前回の更新がいつだったかも忘れてしまうぐらいブログを放置してしまいましたが、ようやく新しい記事を書くような余裕も生じてきたところで、昨秋の佐渡旅行のまとめでもしておこうかと思います。

世界遺産登録を巡る喧々諤々の議論はさておき、佐渡は離島の中では東京からのアクセスも比較的よく、ふらっと思いつきで訪れられるような時間距離にあります。島内での交通手段はだいたいレンタカーが選択されるだろうとは思いますが、実は主要な観光地は基本的に路線バスで訪れることができます。中心部(国中平野)を離れると本数が僅少な区間もあるので少し時間の拘束はありますが、1/2/3日用のフリーきっぷが格安で販売されていることからも使わない手はないでしょう。今回のレポートをもとにひとりでも多くの方が(車の免許を持っていないとしても)佐渡に興味を持ち訪問していただけることを望んでいます。

バスの接続は2022年9月の平日のものですので、今後変更によりできなくなるものもあるかもしれません。一方でよりよいものになる可能性もあって、例えば近々小木ー直江津のフェリーが復活したら旅程の幅が広がるでしょう。

 

1日目

早朝の新潟市中心部からおはようございます。まだ5時台というのに割と明るくて驚きました。早朝は埠頭ゆきのバスがないので佐渡汽船ターミナルまで30分弱徒歩となります。

朝日に照らされるWhat's Niigata

6:00の両津ゆきフェリーに乗船。まだ朝早いですが船内にはそれなりに人がいます(徒歩乗船もそれなりにいました)。しばらくすると新潟市街地が海の向こうに離れていくのが美しいです。まだ新しい船なので座席やお手洗いもきれいで全体に快適です。

2時間ほどすると佐渡島がはっきりと視認されるようになります。着岸直前に見える大佐渡のそそり立つ峰々がとても美しい。

 

8:30頃には両津に到着です。バスまではしばらく時間があったので、雁木のある商店街を散歩して新潟らしさを摂取しておきます。佐渡の平野部はそこまで積雪が多くなるわけではないと思いますが、両津、佐和田、相川には歩道を覆うような構造物がしっかり用意されています。一本裏手に入ると歓楽街らしきものが見え、佐渡の入口としての風格を感じます。

 

新潟交通佐渡 南線(佐和田方面) 両津局前→トキの森公園

 

両津から国道沿いに金井を通り佐和田へ抜ける本線に対して、新穂地区、畑野地区、真野地区を経由して佐和田に至る路線が南線です。休日は観光のための迂回運行が(特に真野周辺で)かなり激しく行われていますが、トキの森公園への乗り入れは平日でも行われています。

トキの森公園では日本を代表する美しい鳥であるところのトキの生態について学べます。本物に近づくことは案外難しく、もしかしたら田んぼで画角を狙う方が撮りやすいぐらいかもしれませんが、双眼鏡越しにカメラ目線を頂けるまで粘るなどしてかなり楽しかったです。

新潟交通佐渡 南線(佐和田方面)  トキの森公園→畑野西町

 

畑野には評判のいいランチスポットが何箇所かあります。地元の人で賑わうカウンターでボリュームたっぷりの定食を頂きました。

また少し真野方面に歩くと特徴的な洋風建築の旧若林邸が現れます。ピンク色の外壁はなかなかに衝撃的ですが、里に映えを与えています。積極的な保存活動も行われている模様です。

降車場所を真野の少し東側(竹田橋)ぐらいにすると妙宣寺五重塔(重要文化財)や大膳神社に徒歩することができるのでそれも好ましいでしょう。しかし時間の都合上温かいご飯にありつけなくなりかねません。

 

新潟交通佐渡 南線(佐和田方面) 宮川→真野新町

新潟交通佐渡 小木線(小木ゆき) 真野新町→小木

 

真野新町はバスの結節点になっており、南線と小木線が数分の接続になるようなダイヤ設定です。待合室もあります。

小木線はかなりのロングラン系統。途中海岸沿いを通ったり、棚田の向こうに海を眺めやったりする変化のある車窓です。西三川地区、羽茂地区を経由して小木の中心街のターミナルに入ります。

(ガラス越しなのでぼやけています)

小木は訪問時点では直江津からのジェットフォイルしか就航しておらず、佐渡の玄関口としての機能は低下した状態で観光客は僅少でしたが、カーフェリーができればまたもう少し活気が出てくるでしょう。

 

⑤レンタサイクル 南佐渡観光案内所→矢島・経島→宿根木→南佐渡観光案内所

 

小木から西側はバスの本数が少ないので電動アシスト自転車で進みます。普通の自転車では厳しい起伏のある道が続きます。気合いを出せば小木の裏山にある蓮華峰寺までたどり着けるかもしれませんが、比高が100mぐらいあるので行く場合は覚悟がいるかもしれません(行けないことはないでしょうが)。西三川から小木までの国道筋はバスがなくなかなか険しいです。

はじめは矢島でたらい舟に乗ろうと思い自転車で向かいましたが、全て出払っていて乗盥(?)できず。風景や街並みはなかなか良いと思います。

しょうがないので宿根木に直行。ちょうどいいタイミングで乗盥できました。一人で貸し切りもなかなかいいですが、船頭1人乗客3人のたらいは人間がみちみちでなかなかスリリングな見た目。

たらい舟の機動性の高い操船により、ゴツゴツした岩のすぐ近くをすり抜けるように進みます。海水の透明度はなかなか高い。少し沖側には隆起して謎の位置に移動してしまった鼻ぐり岩もあります。15分近く乗って800円というのは体験価値としてはかなりありですね。

 

宿根木はなんといっても重要伝統的建造物群保存地区の街並みを外しては語れないでしょう。新潟県唯一の重伝建ではありますが雰囲気としては北陸側の影響を強く感じるところ(東北から山陰にかけての北前船寄港地/北前船主集落に共通するもの)です。細い路地を形成しながら極めて密集して存在する板壁の民家は、外見は耐候性を重視して極めて質素とは言えますが、内部はその財力を感じさせるものになっています。曜日時期の問題で公開されているのは一軒のみでしたが、内部は意外と広々とした作りに感じました。


有名な画角であるところの三角屋、限られた平面を最大限に活かそうとする強い意志が感じられます。

街並みは現住のものも多く含まれていますが、一部はカフェや民宿に改装されており、そのうちの一軒でお茶としました。

 

集落を発ち坂を登ると宿根木集落を上から展望することができますが、現在では国内では珍しくなった石置屋根の建物が密集しています。文化財としての保存は新潟県関川村の旧渡邊家住宅や山形県鶴岡市の旧風間家住宅、酒田市の鎧屋など北陸〜信越の強風地帯に集中していますが、その数は極めて少ないと言えるでしょう。

小木の農協に寄るも夜ご飯が手配できず、困惑しながらホテルにチェックイン。

 

新潟交通佐渡 宿根木線(江積ゆき) 小木→三ツ屋

 

訪問当時は平日はデマンドだったので数時間前に予約。宿根木から貸切になったのでルートが短縮され(太鼓交流館に寄らず)、定刻より20分ほど早く到着しました。

到着すると万畳敷にちょうど夕日が沈む時間。本来なら極わずかだった滞在時間がかなり伸びたのでいい感じにリフレクションが見れそうなところを探しつつ時間を過ごしました。

新潟交通佐渡 宿根木線(小木港佐渡汽船ゆき) 三ツ屋→小木本町

 

これもデマンド運行ですが帰りは太鼓交流館に寄り道。真っ暗な細い山道を注意深く登っていきます。小木の街並みの中心部、洋館のあたりで降りて、いい感じの街灯がついた通りを歩きますが、誰も歩いていないし開いている店も全然なくて困ってしまいました。雰囲気はさすが北前船の街といったところですが。木造五階建の特徴ある建築は翌朝に見ようかと思ったら寝坊して見そびれてしまいました。

 

宿に帰ると出前の案内が貼ってあり、問い合わせてしばらくするとフロントに銀色の大きな箱が届き、中にカツ重が格納されていました。もちろんおいしくいただきました。

 

無事温かいご飯にありつけたところで前編はおしまい。翌朝の後編に続きます。